ご存知 北斎の『冨嶽三十六景 尾州不二見原』。この図は、なによりも奇抜な構図によって世界的に有名です。中央に大きな桶の円があり、その中に小さな富士が遠く見えるという面白さである。しかもこの桶を作っている桶屋の姿を、安定した場所で絵の中心にしている技巧は北斎の独壇場といっていいでしょう。
「尾州不二見原」は、現・名古屋市中区富士見町のことだそうで、地形学的に計算して尾張から富士山を見るのは不可能だそうです。樽の中の山は三河の猿投山だったようで、今やマンションの屋上に登っても林立するビルと大気汚染のため、猿投山さえ見ることは出来ません。
「葛飾北斎」(1760~1849)
「尾州不二見原」は、現・名古屋市中区富士見町のことだそうで、地形学的に計算して尾張から富士山を見るのは不可能だそうです。樽の中の山は三河の猿投山だったようで、今やマンションの屋上に登っても林立するビルと大気汚染のため、猿投山さえ見ることは出来ません。
「葛飾北斎」(1760~1849)
「私は6歳より物の形状を写し取る癖があり、50歳の頃から数々の図画を表した。が70歳までに描いたものは取るに足らぬものばかりである。73歳になってさまざまな生き物や草木の生まれと造りをいくらかは知ることができた。ゆえに86歳になって腕は上達し、90歳にして奥義を極め、百歳に至っては正に神妙の域に達するであろうか。100歳を超えて描く一点は一つの命を得たかのように生きたものとなろう。願わくば長寿の神には、我が言葉が世迷い言などではないことをご覧いただきたい」
「己六才より物の形状を写の癖ありて 半百の此より数々画図を顕すといえども 七十年前画く所は実に取るに足るものなし 七十三才にして稍(やや)禽獣虫魚の骨格草木の出生を悟し得たり 故に八十六才にしては益々進み 九十才にして猶(なお)其(その)奥意を極め 百歳にして正に神妙ならんか 百有十歳にしては一点一格にして生るがごとくならん 願わくは長寿の君子 予言の妄ならざるを見たまふべし」
75歳の時に出版された「富嶽百景」の跋文(後書き)より
今は75歳で元気な人は多いが、江戸時代は五十路に入れば老人と言われた時代である。いつまで生きられるかわからない時点で、このように気を吐くのである。尋常ならざる意欲である。老いて益々盛んとは北斎のことをいう。
北斎は90歳まで生きた。江戸時代においては稀に見る長寿といっていい。臨終を迎えたときの様子は次のように書き残されている。
今は75歳で元気な人は多いが、江戸時代は五十路に入れば老人と言われた時代である。いつまで生きられるかわからない時点で、このように気を吐くのである。尋常ならざる意欲である。老いて益々盛んとは北斎のことをいう。
北斎は90歳まで生きた。江戸時代においては稀に見る長寿といっていい。臨終を迎えたときの様子は次のように書き残されている。
「翁 死に臨み大息し 天我をして十年の命を長らわしめばといい、暫くして更に言いて曰く 天我をして五年の命を保たしめば 真正の画工となるを得(う)べしと言吃りて死す」
北斎は金銭に無頓着であった。北斎の画工料は金一分と通常の倍を得ていたが、赤貧で衣服にも不自由した。しかし金を貯える気は見られない。画工料が送られてきても包みを解かず、数えもせず机に放置しておく。米屋、薪屋が請求にくると、包みのまま投げつけて渡した。店は金額が多ければ着服し、少なければ催促するという形であった。このようないいかげんな金銭の扱いが貧しさの一因であろう。
北斎は、90歳までに93回転居している。出戻り娘の3女のお栄(葛飾応為)が、北斎の身の回りの世話や、絵の手伝いをするようになったが(北斎73歳頃から)、お栄は父親と似て、ずぼらで、小ぎれいにして暮らすということができなかったようです。彼女は客が来ても茶も出さなかった。父娘は、描くことのみに集中し、部屋が荒れたり汚れたりして悪臭を放ちだすたびに引っ越していたという。
93回目の引っ越しで以前暮らしていた借家に入居した際、部屋が引き払ったときとなんら変わらず散らかったままであったため、これを境に転居生活はやめにしたという。
歌舞伎役者の尾上梅幸(のちに三代目尾上菊五郎)が北斎に画を依頼したことがあった。ところが招いても北斎がまったく来ないため、有名人らしく輿に乗って北斎宅に訪問した。掃除もしたことのない荒れ果てた室内は不潔極まりなく、おどろいて毛氈(敷物)を引かせた後入室し着座。一礼しようとすると北斎は 「失礼な奴だ」と怒り出し、机に向かって相手もしようとしなくなった。ついに梅幸も怒って帰ってしまった。後日梅幸が非礼を詫びると2人は親しくなったという。
普段の北斎は横柄ということはなく、「おじぎ無用、みやげ無用」 と張り紙するように形にはこだわらない人物だった。
春画 「蛸と海女」 北斎60歳頃の作品。この絵 気に入ってます。