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Channel: 勢蔵の世界
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極上の幸せ

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 NHKの名アナウンサーと言われた山川静夫氏のエッセイのコピーが手元にある。中日新聞の「紙つぶて」に掲載されたものですが(いつ載ったのかは不明)10年以上前かと思われます。以下そのコピーです。
 
 放送という仕事を通じて、いろいろな方に出会い、感動的なお話をうかがえることを、心より幸せに思っている。
 先日、小沢昭一さんに、母校である東京・蒲田の小学校でインタビュ―した。小沢さんの話術には定評があり、いつも本音をさらけだす迫力にぐいぐい引き込まれる。
小沢さんは、こんな話をしてくれた。
 「もしも自分が死んでから、神様が、お前の経験してきた人生のうち一番幸せだった日を一日だけ、もう一度味あわせてやろうといわれたら、だれだって、あの時かな、いやこの時かなと、幸せの重さを計るでしょう。僕もあれこれ考えましたが結局、この小学校の横にある神社の境内で悪友たちと楽しく遊んだ子供のころの一日を神様からいただくことにしました」
 小沢さんはこう話されて、目をキラッと光らせた。
 人間には欲がある。金を儲けたい、権力を握りたい、豊かになりたい…みな人間の欲である。しかし物欲というのは恐ろしい。何をしでかすかわからない。たとえていえば、金の力で政治を動かす、政治家が賄賂によって悪政を働く、金持ちが死ぬと必ず財産分けでひともんちゃく起こる。儲かる奴ほど脱税をする、ひどいのになると金を儲けすぎて竹藪に捨てる。あれやこれやと思いめぐらすと、暮らしに事欠かぬ生活費さえあれば、あとはまことに余計なものどころか、金はかえって人間を不幸にするものかもしれない。
 それにひきかえ、無垢な子供たちが無心に遊ぶ姿の、なんと幸せで美しいことか。幸せの重みというのは、小沢さんの言われる通り、物欲を捨てたところにあるんだな、と私は深い感動をおぼえた。
 小沢さんは、生きるために懸命に知恵をしぼる大道芸人や露天商の楽しい話をいっぱいしてくださったあと、母校の黒板に
 「幸せはささやかなるが極上」と書かれた。
 
 山川静夫さんは國学院大在学中から歌舞伎が大好きで、彼の著書によると当時(昭和20年代後半)は歌舞伎座の一等席が750円。二等席は450円、三等席150円だったそうで、学生時代の山川さんは芝居を観るために食べ物を極端に切り詰めたとのこと。豊かではなかったときの心の豊かさかを感じます。まさに彼にとって芝居を見ることは、極上の幸せだったのでしょう。


 
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