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Channel: 勢蔵の世界
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象の見世物

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          象の見世物

 駱駝の見世物を述べたから、象にも触れておきます。
 幕末の文久3年(1863)、両国広小路で象が見世物にだされ大評判をとりました。今から述べるのはこの幕末の象ではなく、更に135年前にオランダから将軍吉宗に献上された象のことです。

 享保13年(172867日、広南(いまのベトナム)から、中国の貿易商・鄭大成が長崎に2頭の象をつれてきた。オスは7歳、メスは5歳であったが、メスは上陸3ヶ月後の911日に死亡した。オスは長崎の十善寺にて飼育され、翌年の5月に江戸の将軍吉宗に献上されることになった。 象使いのベトナム人2人、日本人の象使い見習2人、通訳、その他長崎奉行の部下など、総勢14人であった。
  
  この「将軍さまの象」が通る地域には、あらかじめお触れが出ていて、牛や馬は街道に近づけないこと、象が驚くから寺は鐘をつかないこと、道の小石は取り除いておけ、決められた量のエサを用意しておけ、決められた象の休憩小屋を作っておけ・・などなど、細かい命令がだされた。もちろん街道沿いはどこでも一目見ようと黒山の人だかりであったようです。京都では天皇と法皇にお目通りするため何と従四位の官位までいただいた。吉良上野助が従四位、浅野内匠頭が五位だったからすごいものです。2ヶ月かかって江戸に着いた。
  吉宗は、絵でしか見たことがない象を目のあたりにして、最初はとても喜び、象のいる浜御殿へ時々行っては、自らエサを与えたりもしました。ところが象が江戸城についた翌年には、もうこの象を払い下げるというおふれを出しました。
 象を飼うにはエサ代がかかりすぎたのです。吉宗は、大変な倹約家でもあり、政治を老中まかせにせず、「享保の改革」を指揮したほどの人です。自らも絹の着物をやめて木綿の衣服を愛用し、食事も質素でした。何の役にも立たないのに、エサばかり大量に食べる象は無用の長物だったのでしょう。 ちなみに成人の象が1日に食べるエサは、米8升、饅頭100個、みかん100個、藁120㎏、笹の葉90㎏、草120㎏、芭蕉の葉2本等々。

  しかし、払い下げのおふれを出しても、象がすごい量のエサを食べることを知っていた人々は誰もひき取ろうとせず、それから10年間、この象は引き続き浜御殿で暮すことになります。皮肉なもので、象の引取手はなくても人気の方はあいかわらずで、巷では象の本、象の錦絵、象の絵がついた刀のつば、印籠などが出回り、また市川団十郎によって象の芝居までが作られました。

  中野村(中野区)に住む源助は、江戸の浜御殿まで象のエサを運んでいた百姓でした。しかしただの百姓ではなく、商才も持ち合わせていました。源助は象のエサを運ぶと同時に、象の糞の処理を一手に引き受け、これを当時流行っていた天然痘とはしかに効くと宣伝し、現在の淀橋あたりで売り出しました。

 浜御殿で飼われていた象は、その後すくすくと成長し大人の象になった。象の寿命は人間とおなじくらいなんだそうです。小ぶりでおとなしかった象もだんだん気難しくなり、ある日、機嫌をそこねた象が、ぞう使いを鼻で巻いて地面にたたきつけて亡くなるという事件がありました。幕府はこの事件をきっかけに、エサ代と手がかかるこの象を、エサ運びや糞の処理を一手に引き受けていた源助に預けることにしたのです。
 象は中野にやって来ました。源助は、幕府から飼育代(毎日のエサ代)をもらえて、象を見世物にして客から見物料をとれると大喜びでした。さらに商売っ気を出して、象に与える饅頭と同じ形の「ゾウ饅頭」を作って売りました。始めの半年は、見物人も山のように押しかけ、饅頭も飛ぶように売れた。見世物で儲けている話が幕府の耳に入ると、飼育代の支援も打ち切られてしまった。しかし、人々が象に見飽きてくると、見物人も目に見えて減り、饅頭も売れなくなった。儲けがないのでエサを少しずつ減らされた象は、そのうち栄養失調になり、また、南国生まれの寒がりの象は、浜御殿では炭をたくさん使って小屋を暖めてもらえたのに、ここでは何もしてもらえず、とうとう1743年の1211日に病死してしまった。旧暦ですから今なら一月末で最も寒い時期ですね。

 象の死後、死んだ象の皮は、幕府におさめられ、頭の骨と2本の牙と鼻の皮は源助がもらい受けた。しかし源助は、この象の頭の骨や牙を見世物にして、さらに金儲けをしていましたが、そのうち病気になり、何年も床についた挙句、とうとう死んでしまいました。世間の人は、「象をあまりにひどい目にあわせた報いだ」とうわさした。象で稼いだお金は全て病気治療に使われて残らなかったと伝えられています。
     参考文献・『ゾウの大旅行』小林清之介著 
 
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